Archive for 11 April 2005

11 April

石砂山のギフチョウに関する心配事 -今年撮った写真に、丹沢型がいない-

 昨日、話題に出した、石砂山のギフチョウは、近年、他地域から持ち込まれた個体群の繁殖により、地理的変異(※)が失われてきている事が問題視されています。

 そこで、昨日までに、私が撮影してきたギフチョウの写真を、もう一度、見直してみました。
 ギフチョウの地理的変異は、羽の模様で見分ける事が出来ると言われています。
 以下、ちょっと私の個人的な判断で見分けてみた結果を示してみます。
 (判断のために参照したのは、他のサイトで掲載されていた、現地ギフチョウ保護の会で使用している識別用の写真メモです。転載許可を得ていませんので残念ながら、ここではご紹介できません・・・)

丹沢型
丹沢型と思われる個体
 これは2004年に、石砂山の隣の、石老山の金毘羅神社付近で撮影した個体。
 赤印の部分の斑紋の外側辺縁部が内向きに湾曲し、下端が中脈と呼ばれる筋に届いています。
 これで、後羽の黒斑が確認できていたら、丹沢型だと判断できたかもしれません。

日本海岸型?
日本海岸型と思われる個体
 これは今年、2005年の4/9日撮影の個体。
 上の写真の個体で見た斑紋が中脈に届いていません。また、後羽に印を付けた黒斑も、外側の辺が内側に強く湾曲していません。
 これは、典型的な日本海岸型の形質と言われているそうです。

 こうした視点で、昨日掲載した個体の写真を見てみると・・・

これも日本海岸型?
日本海岸型を示した個体
 前羽の黒斑が中脈に届いていません。また、後羽の湾曲が見られません。
 おそらく、日本海岸型と思われます。

これも丹沢型ではない
よくわからない。が、丹沢型ではない。
 前羽の黒斑が中脈に届いていないので、丹沢型ではなさそうですが、どの地域型かまでは、わかりませんでした。

 というわけで、昨日掲載した写真の中には、丹沢型の形質を示した個体は、ありませんでした。
 ちなみに、撮影データの方を過去にさかのぼって確認した所、昨年(発生後期に訪問)は、丹沢型が多く写っていましたが、今年(発生前期)に撮影した個体は、丹沢型の特徴を示した個体は『ありませんでした』。

 たった2〜3年程度のことで話をするのは危険ですが、とりあえず、この地域において、他地域産個体群を放蝶した事による、遺伝的混雑が発生している事は間違いないようです。
 ちなみに、こうした遺伝的な混雑を発生させる事は、この地域で長年かけて獲得してきた遺伝的形質を喪失させる、重大な「環境破壊行為」です。
 こうして雑交配が起きた事で、おそらくは、この地で獲得してきた丹沢型の形質から、新たな種分化等が発生する可能性は、永遠に失われたでしょう。

 そんな大げさな、と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、一例として、ギフチョウの近縁種のヒメギフチョウ(東北〜北海道に分布)は、何百万年か前に、ギフチョウ(中部〜西日本に分布)から分かれて、新たな種として定着した事が知られています。
 今の時代に生きるギフチョウに、遠い将来、同じ事が起こらないと、「ヒト」程度の生物が決められる事でしょうか?
 私は、とてもそんな風には思えません。そして、新たな種が分化する可能性を、「ヒト」程度の生物が奪ってよいとも思っていません。

 なお、上に掲載した写真の個体に対する地理的変異の形質の判断は、参照資料をもとに、私の独断により下した判断であり、上の写真で判断を誤っていた場合、その責任は私に帰します。

(※)地理的変異
 同じ種でありながら、地域ごとに微妙に違った生態および体色などを示すグループに分けられる変異体の事。
 ギフチョウは、産地ごとに微妙に成虫の羽の斑紋が異なるほか、幼虫の食草であるカンアオイについても、微妙に異なる種(カントウカンアオイ、ランヨウカンアオイなど、地域ごとに異なる)に依存するという、典型的な地理的変異を示す生物です。
23:40:40 | yo-ta | | TrackBacks