Complete text -- "山岳遭難関係の本の紹介"

02 November

山岳遭難関係の本の紹介

 去年の12月に、鷹ノ巣山から水根方向に下山中、道迷いをしてしまったあと、今まで以上に、山岳遭難関係の本を読むようになりました。
 (今思えば、何であんな場所で、という気がするが、やっちまったものはしょうがない --;)

 紅葉登山シーズン真っ盛りということもあり、参考になるものからツッコミどころ満載のものまで色々あった中で、一般の皆様にも参考になるだろうと思われるものを、いくつか、ご紹介しようと思います。

 例によって長いので、興味のある方は[more...]以降にどうぞ。
 なお、以下の紹介文章は、私が購入、精読して感じた素直な感想です。

1.生還 -山岳遭難からの救出- 羽根田治:著 山と渓谷社
 遭難事故に遭遇し、生還した皆様の体験談をもとにまとめられた一冊です。
 遭難者本人が事故当時を回顧し、「あの時は・・・」「あそこで・・・」と語った内容が中心のため、リアリティがあります。道に迷う時の心理状態は、確かに私にも思い当たる節があって、うむむ、と唸らされました。
 あと、体験者諸氏の行動の多くは、「生き延びるため」に行ったことであり、一つ一つが、「もしも」の時の行動指針になりそうで、とても興味深いと思います。
 それにしても、「暗転の沢」の章での体験者氏の話は、背筋に冷たい物が走りっぱなしでした。私は、あんな極限の体験をして、なおかつ諦めずに生きようと努力できるか・・・ちょっと考えられなかったです。
 一方で、本書の中で羽根田氏も述べていらっしゃいますが、「開き直った」人間って、強いですね。この強さが、自分にもあると思いたいです。

2.死者は還らず -山岳遭難の真実- 丸山茂樹:著 山と渓谷社
 こちらは、遭難死亡事故の状況から、遭難者の最後の瞬間を、同じ登山者である筆者の視点で描き、事故の真相に迫ろうとした(少なくとも筆者である丸山氏はそう述べています)書で、ある意味で、前書とは対を成す構成の本になると思います。
 あらゆる意味で、読み手を選ぶ一冊だと思いますが、遭難事例の生々しさという観点では、真に迫っています。
 しかし、私は読後、どこかに変な感じの違和感が残りました。その理由の一つが、丸山氏の「山」に対する前提意識が、「より高く、困難を求めて挑戦する」という、いわゆるアルピニズム(?)に基づいていることだと思われます。
 私が「山」に求めることは、挑戦の対象としての存在ではなく、動植物の営みを観察し、四季の変化を肌で感じる場としての存在です。そして、高さも困難も避けられませんが、可能な限り回避が基本、という意識を持っています。
 この意識の違いが、クライマーの皆様と、低山ハイカー(の中でもとりわけ軟弱派)に過ぎない私とが、決定的に異なる部分であり、山と向き合う基本姿勢の違いから、違和感が生じたのかと思います(どちらが良い考えなのかは、私にはわかりません)。
 しかし、本書には、丸山氏はじめ、同じ「山」をフィールドにする先達の皆様から、私のような軟弱派にも参考になる知見は色々示されています。
 私は、特に「道迷い」の章が参考になりましたが、あとは冬季の高山など、私はまず手を出さない(というか、ベテランでも一歩間違えば死んでしまう)事例なので、危機回避の基本姿勢は大いに参考になりますが、具体的な恐怖などは想像もつきませんでした。
 とりあえず、丸山氏が本書をどんな形でまとめたかは「あとがき」に詳しいので、購入希望の方は、最初に「あとがき」を立ち読みすることをお勧めします。そこで違和感を感じた場合、最後まで違和感がつきまとうと思います(私がそうでした)。購入するか否かは、そのあとでご判断を!

 で、以上だと「ヤマケイの回しもんか、ワレーー!!」と言われそうな気がするので(^^;)、以下に番外をご紹介しましょう。
 (しかし、登山・ハイキング系の書籍というと、ほとんどが「山と渓谷社」からの出版なんですよね・・・)

(番外)奥多摩登山考 奥多摩観光協会(非売品。奥多摩観光協会や"水と緑のふれあい館"にて有償配布)
 本書は、特に奥多摩ハイカーにお勧めします。
 もともとは、奥多摩ビジターセンターの機関紙、「あびえす」に連載されていた、奥多摩での遭難事故等に関するコラム(?)を一冊にまとめたものです。
 著者の金氏は、青梅警察署山岳救助隊の副隊長を務めておられ、当然ながら、奥多摩山域での遭難事故の現場をその目で見ていらっしゃいます。そのため、特に近年多発する初歩的な(ある方面からはABS(注)ともいわれる)事故はなくなってほしい、という思いを強く感じていらっしゃるようです。
 私は、本書を読むまで、ごく当たり前のように歩いているような場所で、悲惨な事故があったとは知りませんでしたし、この本を読んでからも信じられません。
 そして、この本を読んでから、下山中に遠くから救急車のサイレンや、ヘリのローター音が聞こえると、はっとする事が多くなりました。

 そういえば、昨年(2003年)、奥多摩山域で遭難事故のために亡くなられた人は、8人にもなっていたそうです。私の感覚では、「そんなにたくさんが!」という感じです。
 皆さん、事故には十分、注意しましょう。

(注)
 「あのバカ、遭難しやがった」の隠語で、とても初歩的であったり、とても非常識な態度の遭難者を指したりするそうです。北アルプスなどの山岳救助隊で使われているとかいう話を聞いたことがあります。
21:25:00 | yo-ta | | TrackBacks
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