Complete text -- "またまた珍しく、映画評なぞやってみます。"

11 February

またまた珍しく、映画評なぞやってみます。

 多忙期の合間に、超久々に感じられる完全オフが取れたので、新宿御苑で緊急「緑」補填を行う傍ら、情操面回復(いわゆる心の洗濯)のために、映画なんぞ見に行ってきました。

 見に行ってきたのは、「運命を分けたザイル」(リンク先、要フラッシュON)という作品です。
 東京では、新宿南口の高島屋の上にある、テアトルタイムズスクウェア(旧IMAX新宿)で上映されています。

あらすじ:
 若きクライマー、ジョーとサイモンは、アンデス山脈のシウラ・グランデの未踏ルートである西壁攻略に意欲を燃やしていた。
 計画通り入山し、幾多の困難を乗り越えて、未踏ルートを制覇、登頂を果たす。
 その下山中、標高約6,000mで先行者が氷壁降下中に滑落して負傷し、行動不能に陥る。この高度で一人が行動不能になることは、二人そろって命の危機に追い込まれたことを意味していた。
 二人はザイルで互いを繋ぎ、怪我人を先に斜面を滑らせて落とし、健在なものがその後をたどる形で下山を続行。
 しかし、何度目かの滑降中に、怪我人は氷壁のオーバーハングを越えて落下。下の氷河まで数十メートルという高さに宙づりになる。
 一方、上で支えるビレイヤーも、足下は粉雪の斜面。次第にグズグズと崩れ、体勢はどんどん不安定になり、徐々に斜面を滑り始める。今や二人そろって落下することも、時間の問題だった。
 確実に迫ってくる死に恐怖する二人。そのとき、ザックの中のナイフの存在を思い出すビレイヤー。今、ザイルを切断すれば、自分は助かる。しかし、宙づりの彼は、確実に・・・。
 そして、追い込まれた彼が下した決断は・・・。

 いやあ、ネタバレにならないようにあらすじを組むのが大変だった(^^;)。

 では、例によってネタバレなしの感想から書いてゆきましょう・・・。
 私は登山・・・というよりは、低山ハイキング兼自然観察兼写真撮影という、普通に見て滅茶苦茶な趣味を持っていますから、やはり一応、山の世界には共感する所があります。
 かといって、アルピニズムに傾倒するほど硬派ではなく、「超」が何個つくかわからないほどの軟弱遊歩派ですので、この物語の二人のように、未踏の氷壁を目指したいとは思いませんが・・・。

 とりあえず、この作品は実話に基づく話ですから、「映画」でなく、「ドキュメントフィルム」と思って見る方が良いと思います。
 実際、話の流れは、時々NHKなんかで放映されているBBCのドキュメント番組みたいに、映像の間に当事者インタビューが差し挟まれるアレと同じです(この映画自体もイギリス製。似ているわけだ^^;)。

 で、ついでに言いますと、ドキュメンタリーである以上、「映画」としてのストーリー性を求めるのもキツそうです。
 登場人物は3人で、そのうち物語に深く絡むのは2人だけ。それ以外に映し出されるものは、「白い地獄」です(これは南極大陸の過酷な環境を語った言葉だったと思いますが、この映画を見て、風雪吹き荒れる高山も同じだと思いました)。
 どうしても、セリフは少なくなり、ナレーション(インタビューの音声がそのままナレーションになっている)主体の進行になります。
 ただ、その場の雰囲気と、登場人物の心情をあれこれ想像して、極限状態にある人間が発揮する「強さ」や「弱さ」。そして、否応なく突きつけられる、文字通り「生死を分ける」選択に対して、自分はどのような選択が出来るか・・・を考えられたら、すごくはまる作品だと思います。

 宙吊りになっているのが、自分の大切な人で、自分がビレイヤーだったら、どんな選択をするのか?
 私は結構、この思考にはまりました(^^;)。
 が、隣の席のおやじは早々に脱落したようで、夢の中に旅立っていったようです・・・("いびき"がなかったから良しとする)。

 あ、そういえばこのシアターですが、もともとはIMAXフィルム映写用に作られたシアターだけあって、スクリーンが超巨大です(感覚的に、シートに座ると、視界全部がスクリーンという感じ)。
 私はIMAX時代から、何度か訪れたことがあるので知っていたことですが、この大画面を見るためには、席は後ろの方がいいです。前に座ると、字幕(横書き)を見るのも、左右に首を振らないといけません。

 また、客席もIMAXの45分〜1時間程度の短編フィルム観賞用を考えられているためか、クッションが硬いうえに、膝元や背もたれも窮屈で、100分間も座っていると、尻や腰が痛くなってきます。
 こんなに尻が痛くなった映画は、「ダンス・ウィズ・ウルブス」や「シン・レッドライン」や「ロード・オブ・ザ・リング(3つ全部)」くらいだったような?
 しかし、これらの作品は全て、約3時間(ロード〜の「王の帰還」はもっと長い)という上映時間があってのことです。普通の長さの映画で尻がこうなるのは、ちと問題だよな・・・。

 では、ネタバレあり編は[more...]以降に書きますが、マジでヤバいネタバレを含みますので、映画を見たい方はクリックしないように!!!
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 ここから先は、「ネタバレ」を含みますので、読みたくない人は、すぐに違うページに飛んでください。

 さて、物語の主人公のジョーとサイモンは、実際にシウラ・グランデの西壁を初登攀したクライマーです。
 そして、実際にこの遭難事故を起こし、その後、英国登山界を多いに騒がせた存在になったようです。

 なお、負傷して行動不能になったのはジョーで、ジョーの落下を食い止めるべく必至になっていたのがサイモンでした。
 夜の闇が迫る中、足下が徐々に崩れてゆくなかで、サイモンはジョーと繋いでいたザイルを切断しました。この行動は、当然、後に轟々たる非難を浴びることになりました。

 一方のジョーは、ザイルを切断され、下の氷河へと落下します。しかも、落ちた場所は氷河に口を開けたクレバスの中。奇跡的に生存していた彼は、暗闇の中で、すでに山の上で折れていた右足をかばいながらも奮闘し、生還のための努力を行います。

 サイモン(ザイルを切断したとき、ジョーが宙吊りになっていたとは知らず、翌日、下降中に自分の直下にオーバーハングがあり、ジョーは宙吊りだったのだと気づいた)はその後、クレバス帯を単独で抜けるという危険を冒しながらも無事にベースキャンプに帰着。罪の意識からか、早々の撤収は行わず、それから数日、そこで心を整理することにしたようです。

 ジョーはその後、奇跡的にクレバスを脱出し、4日かけてベースキャンプに到着。
 最後の方は、怪我の激痛と脱水症状と疲労で完全に混濁し、幻聴が鳴り響き、幻覚が見える中を、ふらふらになりながらも生還を果たしました。
 特に、氷河の作った堆積物の山(モーレーン)を行くときは、強烈な乾きに、水音が絶えず聞こえ続けるなど、壮絶な体験をしたようです。

 さて、以上のあらすじをふまえて、私がまず考えたのは、やはりサイモンの「ザイル切断」が正しかったのだろうか、ということでした。
 ちなみに、実際のサイモンは、帰国後、轟々たる非難を浴びました。しかし、ジョーは彼をかばい続けたそうです。自分を(ある意味で)殺そうとした相手をかばうなんて、奇妙だ、と思う方も多いかもしれません。

 しかし、私もサイモンの行動は責められません。
 まあ、私の乏しい語彙力で長々書いても、考え通りに示せるかどうかわかりませんので、短く書きますと。
 自分が手を差し伸べれば確実に助かる人を、特別な理由もなく見殺しにするのは、どんなことがあっても許せません。
 しかし、「自分を犠牲に他者を生かすか」「他者を犠牲に自分を生かすか」「あるいは両者ともに死ぬか」の三者択一を、「非常に切羽詰った状態で、瞬時に」迫られた場合。
 自己を優先する選択をしてしまったとしても、その人をどうして責められるのでしょうか?

 そして、ちょっと自分に置き換えて考えましたが・・・。
 もし、私がサイモンで、ザイルの先には大切な人がぶら下がっているとしたら・・・。
 私は多分、ザイルを切れません。そして、一緒に墜落死するんでしょうね・・・。

 逆に、私がジョーの立場だったら・・・。
 ザイルを切られても、相手を責める気にはなれないと思います。

 まあしかし、この映画。役者さん(再現パートのみに出演)も実際に雪山の中での演技が多く、大変だったことでしょう。
 後半、ジョーが氷河を抜け、モーレーンにさしかかったあたりからは、彼が脱水症状に苦しむ様子を見ながら、私も喉がカラカラになっていました。
 ジョー役の役者さんの迫真の演技は、結構見物です。
22:40:00 | yo-ta | | TrackBacks
Comments

M8 wrote:

こんにちは。
私だったらどうするか・・・考えてみましたが、結論はそのときになってみなければ分からない・・・でした。
お正月に八ヶ岳を登ったときは氷点下20度くらいでしたが、低温になると、動作が鈍くなるのはもちろん、思考能力も低下するのがよく分かります。おそらく、極限状態になると、意識混濁状態に近くなるような気がします。
善悪の判断とかもかなり鈍くなるんじゃないかなあ。
02/13/05 19:13:54
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